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BOOK Review――この1冊 『教養としての「地政学」入門』

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『教養としての「地政学」入門』 出口治明 著/日経BP 刊/定価1980円(税込)

新聞やニュースで、よく「地政学的に考えると」という表現を見たり聞いたりする。地政学とは、気候や産出される資源、国境を接する国々との関係といった地理的条件に規定される政治の在り方を研究する学問だ。

では地政学的にみたとき、日本はどんな条件に置かれているか。そして、その条件を踏まえたうえで、今後どんな外交カードをきれるのか――。

例えば、沖縄に集積する米軍基地をどう位置付けるか。はたまた、中国による尖閣諸島に領海侵犯、韓国による竹島の不法占拠などにどう対処すべきか。日米同盟の行方についても、よくよく考えなければならない。

そうした事柄を自分の頭で考えるために必要な知識を、立命館アジア太平洋大学学長の出口治明氏が解説するのが本書だ。地政学的に重要と思われる世界史上の事柄を、古くはメソポタミア時代にまでさかのぼって網羅的に解説。地政学の観点から歴史を俯瞰的に捉える眼力を養ってくれる。

本書で主に登場するのは現在の中国やトルコ、スペイン、フランスなど、世界の覇権を握ってきた国々やその周辺国家だ。

歴史を振り返ることで、世界史の主役となった国々がユーラシア大陸に数多くあること。資源が豊富にあり、多くの人口を養える肥沃な大地を擁するという地理的条件と、深く関連していることが分かる。アメリカが世界の表舞台に登場し始めたのは近代に入ってから。20世紀には、食物や資源が豊富にとれる広大な国土を強みに、西欧諸国を追い抜く経済成長を成し遂げた。経済的優位性に支えられた世界最大の軍事力は、今なお揺るぎない。

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ひるがえって日本をみると――。

地政学的な特異性が浮かび上がってくる。ユーラシア大陸の東にはずれにあるわが国は、世界市場において高値で取引される食物や資源がないため、歴史上あまり外敵の侵攻を受けなかった。しかし幕末、中国との交易に必要な太平洋航路を開くために開国を要求したペリーの来航を契機に、日本の地政学的な価値が世界に発見されるようになる。

わが国は、中国とロシア、二つの大国に近接する島国であり、両国が太平洋へ出ていく際に障害となりうる絶妙な場所に位置する。この特殊な地理的条件が、冷戦終結あたりまでの日本の地政学的立ち位置を決定づけた。日米同盟も、結局はこの地政学的条件を土台としている。しかしながら、日米同盟を安心材料としすぎる日本の姿勢が、周辺諸国とよい関係を結ぶ外交努力を怠る理由になってはいないか。著者はそう問題提起する。

加えて著者は、今後、日本が実効性のある同盟を結べる候補となりうるのは、EU、中国、アメリカであることも指摘。安全保障に関わる同盟の実行性は、相手国が、自国と同等以上の経済力と軍事力を有するか否かで担保されるというのがその理由だ。

まず、EUは距離が遠すぎるうえ、日本と同盟を結ぶ動機にも疑問符がつく。中国との同盟は戦略的には有効だが、両国の国民感情を考えると締結には時間がかかりそうだ。そう考えると、現在のところ最も現実的な同盟相手国はアメリカになる。

ただし、日本の同盟相手国候補はアメリカに限られる一方、自国を守るに十分な経済力や軍事力をもつアメリカは、戦略に応じてさまざまな候補のなかからパートナーを選ぶことができる。

では、日本がアメリカに選ばれるパートナーであり続けるには何が必要か――。

ここから先は、私たち一人ひとりが考えるべき宿題だ。本書を足掛かりに、日本外交の未来を照らす戦略を探っていきたい。

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この記事を書いた人

ウチコミ!タイムズ「BOOK Review――この1冊」担当編集

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